まごころ介護のお役立ち動画コラム
MAGOCORO MOVIE COLUMN
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「料理がまずい」と言われた時の声かけ術〜利用者との信頼を深めるコミュニケーションの秘訣〜
介護の現場で働く皆さん、日々の業務本当にお疲れ様です!
今回は、介護現場で非常に重要となる「声かけ」と「コミュニケーション能力」に焦点を当てたコラムをお届けします。
▼過去のシリーズはこちら!
①介護現場での声掛け術!難しい排泄介助に対する心温まる対応
②現場で使える声掛け『死にたい・早くあの世に行きたい』
目次
介護の仕事は、利用者さんの身体的なケアはもちろんのこと、心のケアも非常に大切です。そのためには、適切な声かけやコミュニケーションが欠かせません。しかし、「この場面ではどう声かけたらいいんだろう…」「利用者さんが不満を口にされた時、どう対応すればいいんだろう?」と悩むことはありませんか?マニュアル通りにはいかないのが、介護現場のリアルですよね。
今回のコラムでは、介護現場で実際に役立つ、場面に応じた具体的な声かけのヒントをご紹介していきます。ただ単に「良い声かけ」を提示するのではなく、「自分も相手も心地良いコミュニケーションを築くにはどうすればいいか」という視点を大切にしています。これまでの介護経験で多くの方が直面したであろうシチュエーションや、今後も出会う可能性のある場面に特化して解説しますので、明日からすぐに使える内容ばかりです。
今回のテーマは、訪問介護ヘルパーとして在宅支援に入る中で経験するであろう、あるいは特別養護老人ホームなどのあらゆる介護現場で共通して起こりうる、非常にデリケートなシチュエーションです。それは、「作った料理が『まずい』と言われてしまった時」の声かけについてです。
このシチュエーションは、ヘルパーさんだけでなく、特養やデイサービス、グループホームなど、あらゆる介護の現場で共通して役立つコミュニケーション術が詰まっています。実は、嫁姑関係など、介護以外の人間関係においても応用できる「究極の声かけ」にもなり得ますので、ぜひ最後までお付き合いいただけると幸いです。
このシリーズでは、効果的な声かけの根拠となる高齢者の心理についても深く掘り下げて解説していきます。なぜこの声かけが効果的なのか、その理由を理解することで、より記憶に残りやすく、実際の場面で再現性の高いコミュニケーションを身につけることができます。
不満をぶつけてくる利用者さんに対して、支援する側も精神的にきつくなることってありますよね。しかし、その考え方や捉え方を変えるだけで、ぐっと楽になることがあります。
実は、不満をぶつけてくる人の不満の裏側には、「期待」が隠されていることが多いのです。怒りや不満を口にしている人は、心の奥底で「助けてほしい」「分かってほしい」と訴えているのと同じだと思ってください。
考えてみてください。全く期待していない相手に対して、わざわざ自分の思いをぶつけることはしないですよね。つまり、あなたに不満をぶつけてくるということは、あなたに対して何かしらの期待を抱いている証拠なのです。怒っている人は、心の奥底であなたに助けを求めている、そう考えるだけで、少し気持ちが楽になりませんか?
では、具体的な事例を挙げて考えてみましょう。
愛さんは、花子さんのために一生懸命考えた料理だったので、思い切って尋ねてみました。
「花子さん、お口に合いませんか?」
すると、花子さんは少し強い口調で答えました。
「あなた、料理苦手でしょ?美味しくないわー」
あるいは、もっと直接的に「まずいわよ!」と仰る方もいらっしゃるかもしれません。
もし、あなたがこの状況に直面したら、どう返答しますか?
感情的になった時に起こること
私だったら、まずこう思います。
「一生懸命作ったんだから、そんな言い方しなくたっていいじゃないか!」
と、瞬間的にそんな言葉が頭に浮かぶでしょう。これは、多くの人が抱く自然な感情だと思います。
しかし、もしその感情をそのまま口に出してしまったらどうなるでしょうか?相手も感情的になって、さらに追い打ちをかけて言い返してくるかもしれません。
あるいは、花子さんは悪気がなく言ったつもりなのに、愛さんが落ち込んでしまい、その後の関係がぎくしゃくしてしまうかもしれません。
どちらにしても、その場の雰囲気は、お互いにとって心地の良い空間にはなりません。私たちは、利用者さんとの間に良い関係を築き、安心してサービスを受けていただくことが重要です。感情的なぶつかり合いは、誰も望んでいません。
では、どうすれば良いのでしょうか?
「あなた、料理苦手でしょ?美味しくないわ」と言われた時に、ぜひ試していただきたい声かけがあります。
それは、こんな風に返答することです。
どうですか?もし、このように返されたら、花子さんはどう反応するでしょうか?
おそらく、「いいわよ!味を見ながら教えてあげるから、言ってみて」となるはずです。
この声かけを要約すると、まさに「弟子入りさせてください」という姿勢なのです。
なぜ、この「弟子入りさせてください」という声かけが高齢者の方に響くのでしょうか?そこには、高齢者の深い心理が隠されています。
想像してみてください。1年前まではテキパキと料理をこなしていたのに、今は一人で作れなくなってしまった悔しさ。特に、女性のご利用者さんの場合は、「できることなら自分で料理したい」という強い思いを抱いていることが多いのです。しかし、身体が思うように動かない、という現実に直面し、その悔しさは想像を絶するものがあるでしょう。
「あなた、料理苦手でしょ?美味しくないわ」という言葉の裏には、もしかしたら「かつての私だったら、もっと美味しいものが作れたのに」という、ご自身の現状に対する悔しさや、できないことへの焦りが隠されているのかもしれません。
もし、感情のままに「一生懸命作ったんだから、そんな言い方しなくたっていいじゃないですか!」と返してしまったら、お互いに心地良い空間は生まれません。私自身も、油断するとすぐに感情的になってしまうタイプなので、この「間を置く」ということを常に意識しています。
ほんの数秒の「間」が未来を変える
心の中に浮かんでしまう感情や思いは、誰もが同じです。その感情をそのまま表に出すか、それともほんの数秒、「間」を置くか、その違いだけなのです。
一息ついて、相手の感情に意識を向けてみてください。「きっと、ご自身の現状に悔しさを感じているのだろうな…」そう考えて、「味を見てアドバイスをもらえませんか?」と伝える。
たった2秒、3秒の間を置くか置かないかの差。このわずかな「間」が、コミュニケーションの質を大きく変えるのです。つまり、「弟子入りさせてください」「教えてください」という根底にある声かけこそが、ご利用者さんとの良質な関係性を築く鍵となります。
高齢者の「役割」を意識する重要性
年齢を重ねるにつれて、人は社会における役割が減っていく傾向にあります。特に料理に関して言えば、多くの高齢者の方は長年の経験を持つ熟練の「プロ」です。20代のヘルパーである愛さんは、言ってみればまだ「ひよっこ」です。
そこで、「教えてください」という声かけを一つ加えるだけで、花子さんに「教える」という役割が生まれます。介護職が意識するべき非常に大きなポイントとして、「役割を作る」ということがあります。
なぜなら、歳を重ねるにつれて役割が減っていく中で、高齢者の方々は役割を求めているからです。決して口にはしませんが、心の奥底では「役割がほしい」と願っているのです。人はいくつになっても、誰かに認められたい、必要とされたいという欲求を持つ生き物です。だからこそ、「役割を作る」という意識が非常に大切になってきます。
これは、介護の現場だけでなく、子育てや人材育成など、あらゆる人間関係において共通して言えることです。頭では分かっていても、いざ実践となると難しい場面も多いでしょう。だからこそ、時々こうして思い出して意識し、実践する。この繰り返しが、より良いコミュニケーションを築く上で重要なのだと思います。
今回は、ヘルパーさんが作った料理が「まずい」と言われてしまった際の具体的な声かけを例に、介護現場で実践できるコミュニケーション術について解説しました。
重要なポイントは、瞬時に感情的になるのではなく、まずは「間を置く」こと。そして、お年寄りが自分でできなくなってしまったこと、役割を失ってしまったことへの悔しい気持ちに寄り添うことです。その上で、「弟子入りさせてください」「教えてください」という姿勢で、相手の役割を引き出すコミュニケーションを意識することが大切です。
高齢者の方々が持つ知識や経験は、私たちが想像する以上に深く、貴重なものです。その知識や経験を「教えてもらう」という形にすることで、相手は尊重され、認められていると感じ、ご自身の役割を再認識することができます。これは、高齢者の方々の自己肯定感を高め、生きがいにも繋がる非常に重要な要素です。
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監修
公開日:2025年6月30日
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